ハンデキャップ受験のAtoZ。怪我や病気でスキルアップを諦めないで!

  • 投稿者:文月みさきさん
  • 勉強形態:独学
  • 受験回数:1回
  • 勉強期間:約3か月

はじめに

 今回、日商簿記検定で無事三級を習得できたので体験談を投稿させていただきます。私は20代後半の営業職会社員だったのですが、10月に腰の骨・足の骨等を折る大怪我をしてしまいまして、長期間の入院生活を余儀なくされました(10月~2月中旬まで入院しておりました)

 徐々に起きあがれるようになった頃、「入院中の時間を無駄にしたくない」「元の職業にはに戻れないかもしれないので、転職に生かせる資格が欲しい」「営業にも役立つ資格が欲しい」ということで、母も資格を持っており以前妹も取得を志した簿記の資格を取ることを志しました。

 今からお伝えするのは12月末~2月の3ヶ月の、最初は腰の具合もあり長時間勉強できない→中盤からは回復に伴い勉強時間が増える、ただし「まとまった時間が取れない」という、かなり変則的な体験記です。

~12月末までの勉強方法

 妹は以前簿記学習にあたり、近所の簿記講座(公民館の市民講座)に通っておりましたので、問題集(『ボキトレ 日めくりドリル 日商簿記3級(著者:前田信弘 発行:日本能率協会マネジメントセンター)』)を譲ってもらい、学習を開始しました。

 これは1日1枚、49日完成だったので12月末までに大まかなところを掴めるかと思い、ひとまずの軸をこの教材に据えました。1日1枚を最初はベッドに寝ながら解いていました。

 演習問題は基礎から試験内容レベルまで網羅できる内容だったのですが、如何せん1日1枚ではその単元の演習をやりきれる程の量がなかったことと、「表:問題」「裏:解答・解説」のため、解説を読んで理解して問題に取り組みたい私には不親切な作りでした。

 妹からは同時に『日商簿記3級テキスト(編著者:ダイエックス総研 簿記試験対策プロジェクト 発行:ダイエックス出版)』も譲り受けていたのですが、テキストの内容が少々高度で基礎固め期には不向きでした。

 そのことを母に伝え、基礎をより理解できるテキストを探してきて貰いました。本当は自分の目で選ぶのが一番だったのですが、入院生活はそこがつらいところです。(ネットの評判を携帯で閲覧して通販する、という方法も後で思いつきました。その時は頭になかったです…)

 そして『トコトンやさしい 日商簿記 3級テキスト(著者:前田信弘 発行:ナツメ社)』を入手しました。以前簿記を取得した母親が「一番判りやすそうなものを選んだ」とのことですが、その通りです。このテキストは、仕訳や帳簿を実際の商活動のシーンに応じて書いているため、一連の流れがわかり易く、図表が多いため理解しやすかったです。

 一日の流れとしてはボキトレの今日のページを開いて今日の学習内容の単元チェック→トコトンやさしいの索引でキーワードを引き、目標の単元を読み、基礎を理解する→日商簿記3級テキストのテキストで応用の部分を理解し、内容確認問題で軽く演習→仕上げにボキトレの問題集を解く…これを1セットにし、毎日続けました。

 途中でいつも腰が痛くなり、休憩を挟みながら取り組んでいました。今当時の問題集を見ると痛みで文字が歪みまくっています。12月中盤から腰が耐えられる時間も長くなり、歩行器を使っての歩行訓練もリハビリになっていたので、この頃からは病室から少し離れた談話室で学習を始めました。

 簿記の資格を持つ他の患者さんや看護婦さんに話しかけられたりする機会が多く、中でも70歳を越えたおばあさんが「夫の店を手伝うため」取得していたケースも聞き、改めて感服…情報や激励を頂くことができ、モチベーションの向上に繋がりました。

 早々に、「試験当日はトコトンテキストを持っていこう」と決めていたので、問題演習での間違いや補足・他の人に聞いた試験の情報は逐一テキストに書き込んでいきました。その際にはなるべく判りやすい言葉で、間違えたときの状況を思い出せるように簡単に書き込むようにしていきました。

テキストへの書き込み
テキストへの書き込み

 苦手だったのが訂正仕訳と決算振替仕訳、裏書譲渡だったので、テキストには訂正前の仕訳・決算後の仕訳・(譲渡する手形を)受け取った際の仕訳を書き入れて、一連の流れが理解できるようにしました。時間が経って忘れてしまった際も、この書き込みのおかげで理解しなおすことができました。

年末年始・試験申し込み

 予定通り12月末に一通りの基礎が済みました。一日一ページできなかった日も多かったのですが、後半は一日2ページ分やって追いつき、テキストのまとめ問題もノートに解いて行きました。判らない所も多かったのですが「まぁ二ヶ月もあるし」で鷹揚と構えていました。

 そして年末年始に外泊許可が降りたため、過去問題集(『ドンドン解ける 日商簿記3級(著者:高柳和夫 発行:成美堂出版)』)を購入。

 実際に本屋で見比べ、持ち運びやすいサイズであったこと・収録回数が15回分と多かったこと・解答用紙が別冊になっていることが決め手で購入を決めました。早くから過去問に取り組みたい方、基礎が既に判っている方には回数をこなすことをお奨めします。

 病院に戻り、試験勉強後半戦が始まりました。年明けに試験申し込みが始まりましたので、商工会議所にハンディキャップ受験を申し込みました。

 ハンディキャップ受験の際は、あらかじめ商工会議所に電話し自分のハンディを申告し住所を告げ、(私の場合「通常会場だと階段の上り下りが不便になる件」「足が悪いため和式トイレを使用できない件」「杖の持込」「コルセットを巻き外しする可能性」「途中で腰を痛くしてしまう可能性」を告げました)

 その後通常通り申し込み。会議所から「特別対応依頼書」が届くので、自分の希望する配慮を書いて会議所に郵送…の手順で申し込みます。

 依頼書には「ルーペ使用」「耳が聞こえないので試験官の筆談希望」「付添人希望」「机の持込」「車椅子持込」等細かく項目が分かれており、様々な配慮をしていただけます。隣室は救護室にしているため、腰が痛くなり試験の続行不可ならば横になれる旨の説明も頂きました。

 また1月中旬に、病院からの外出許可を貰い会場の下見にも行ってきました。会場までの道、会場はエレベータが整備されていることと、各階にハンディキャップ用トイレの整備を確認できました。これで自分も安心しましたし、病院の医師への説得もスムーズにできました。

 商工会議所の方には本当によくして頂いて、不慮の病気や怪我で受験を諦めてしまうのは勿体無いことだな、と改めて合格への決意をしました。

~2月末までの勉強方法

 一度2時間の時間を計って解いてみたのですが、以下のような多くの課題を残し、合格ラインに満たない点数ばかりとっていました。そこで、それぞれの課題ごとに対策を考えて実行しました。

  1. 1時間を越えた辺りから腰が痛くなってきて集中できなかった
  2. 精算表が理解できておらず、どの項目を損益・貸借に当てはめればよいのか分からなかった
  3. 第3問・第5問の膨大な仕訳を問題ページの余白で処理していたため、転記ミスが多かった
  4. 電卓がボタンが押し辛く00ボタン、→ボタンもなかったため計算ミスが多かった
  • 1.腰が痛くなる対策

 90分以内に問題を解くよう訓練していく。1・2・4を30分、3を30分、5を30分で考え、また病院内ではリハビリや検温・早い就寝時間のせいでまとまった時間がとれなかったので、上記の30分を1セットで考え、家から持参したキッチンタイマーで30分ずつ計って問題を解いていきました。

 途中で診察や検温が挟まってもタイマーを一時ストップできるのでとても都合がよかったです。残り時間が見えることで時間内に解く訓練もできました。最初は30分では解けないことが多かったため、30分で一度区切って、その後10分か20分時間を追加していきました。

  • 2.精算表対策

 一度基本に立ち返ることにし、損益・貸借各表の意味を考える中で、テキスト内の書き込み「損益計算書→会社の一年の通信簿、貸借対照表→会社の持ち物一覧」という非常にくだけた自分の書き込みを見つけました。

 そこで、脳内に「来期から会社を息子に譲る社長」と「来期から会社を運営する息子」を設定し、迷った各項目について一つ一つ検討していくことにしました。

  • 繰越商品→父「息子が来年から売るものだから表にして譲ろう」→貸借対照表
  • 仕入→息子「去年の活動は俺の活動には関係ない」→損益計算書
  • 保険料→息子「父親がいくら払っても俺の運営には関係ない」→損益計算書
  • 前払保険料→息子「俺の期の分まで払っていてくれた!」→貸借対照表

 上記のように、それぞれの表の役割を自分なりに納得のいく形で理解できたため、精算表問題は得点源の一つにできました。見慣れない項目が出てきても、社長や息子が勝手に脳内で振り分けてくれるイメージでした。また、穴あき清算表が特に得意になったため、本番までずっと、穴あきがでないかと夢見ていました…出ませんでしたけど。

  • 3.余白の対策

 看護師さんから「なるべく簡素に書かないと余白がごちゃごちゃになっちゃうわよね。私もそれで苦労した」と声を掛けられたおかげでずっと余白を駆使して解いていました…が、後に若い看護師さんから「計算用紙を別途貰える」と聞き脱力…(昔は貰えていなかったのでしょうか?)

 真偽不明だったので、比較的最近受験した友人にメールで尋ね、ようやく真相に辿りつきました。判らないことがあったら、体験談サイトで確認したり、経験者に聞いてみることで不安を減らすことができるかと思います。

  • 4.電卓の対策

 1月下旬で今の仕事を退職することになり、私物を会社に取りに行った際、仕事で使っていた「SHARP EL-134H」を回収してきました。小さめサイズで使い慣れている電卓で計算ミスが格段に減っていきました。

 電卓訓練のため、看護師さんの帳簿付けの手伝いもさせてもらっていました。患者さんの「一週間の平均血圧」や病院の「備品類の使用合計数」の計算をしていくなかでどんどん電卓が早くなっていきました。

電卓
電卓

直前期の勉強方法

 過去問を15回分一巡し、二巡目からは「120分一度に解く」訓練と「大問レベルで苦手な過去問」を解いていく訓練に切り替えました。繰り延べ・見越しは経過月数数え間違いがとても多かったので必ず図を書いて指を折って数えるようにしていきました。

 試験10日前に退院。最後の追い込みをゆっくりとした環境で取り組んでいきました。入院中に21時就寝7時起床の生活リズムができていたため、試験までその睡眠リズムをキープし、朝一の試験に取り組んでいきました。

 試験予想をネットで見ていくうちに簿記検定ナビさまを発見。勉強開始時からこんなサイトを見れていたら…と悔やみながら、予想や体験談を読ませて頂きました。

試験日の1日の流れ

  • 6:30

 起床。腰用コルセットを含め、持ち物の最終確認。前日に、電卓を日に当ててソーラーバッテリーを充電し、万が一の電池切れに備えておいたので、予備の電卓と一緒にカバンへ。受験票紛失に備えて、持参テキストの判りやすい部分に受験番号をメモしておきました。

  • 7:30

 当日同行してくれた妹と電車に乗り試験会場へ。電車の中ではテキストの書き込みを入れたところを中心に復習。うっかりミスの多かった為替手形・自己受為替手形を見返しながら、ここが出ないといいなぁと念じる。

  • 8:00

 駅からはタクシーを使い、会場到着。早く着きすぎたように感じましたが、既に会場に入る受験生はとても多かったです。大原からの直前対策チラシを受け取って、受験票で部屋を確認して部屋に入ると…そこはまるで重役の会議室でした。

 一瞬部屋を間違えたかと焦りましたが、特別対応受験は会議室(円卓)を使用してやるようで、しかも私が一番乗りで試験官二人(ホワイトボードに注意事項を記入していました)と私だけ…。今回この部屋での受験は三人であること、隣の部屋の応接室のソファを緊急用ベッドにしてある旨を伺いました。

  • 8:15

 一端トイレへ。帰りに応接室のソファを念のため確認。戻って席に座り、大原のチラシとテキストで最終確認をしていきました。過去問の問題集も持参しましたが、難しい論点に目が止まり不安になることを防ぐためテキストで基本の確認に留めました。

  • 8:30

 試験官が一端退出し、その間に他の受験生二人が到着したため、状況説明も含めて簡単に世間話。

  • 8:45

 念のため、もう一度トイレへ。持参した暖かいほうじ茶で水分補給をし、試験本番を迎えました。

  • 9:05

 試験開始。試験前に名前と受験番号をしっかり書かせてもらえました。いつも解いていた順番どおり 1→5→3→2→4 の順番で 30分の区切りを意識しながら解いていくように決めていました。ざっと問題を見回し、全くの初見問題がなさそうなことを確認し、ついでに精算表問題が穴あき精算表でなかったことに少しため息をつきました。

  • 第一問(所要時間:10分)

 (3)社会保険料預かり金 の勘定項目に見覚えがなく、ひっかけか?と少し勘ぐりましたが、他に使えそうな項目が租税公課しかなかったため租税公課よりはこちらだ と解答。(4)当店が振り出した とあるので小切手の状態はプラマイゼロ ということで小切手の処理は逆にこの二つが少し考えましたが残りは難なく解けました。

  • 第五問(所要時間:20分)

 借入金の利息のみ少し考えましたが、他はゆっくりとミスをしないように解いていきました。損益・貸借両方で純利益額が一致したので、自己採点用に問題用紙に純利益だけ書き入れて次の問題に。

  • 第三問(所要時間:30分)

 一度全て仕訳を書き出した時点で「これは重複のあるタイプだ!」と気がついて青くなる。一度全ての項目を見直してだぶりを消していったため、思ったより時間がかかりました。両方の計算が合ったので合計をメモして次へ。

  • 第二問(所要時間:15分)

 苦手な為替手形が出てきたため、そこは図をかいてゆっくり整理。為替手形の絡んだ取引先の売掛金明細表はひょっとしたら間違ってるかも…と弱気になりながらも部分点が取れればそれでいいや、と開き直りました。

  • 第四問(所要時間:15分)

 しっかり計算してゆっくり書いていけば迷うことはない問題でした。ひっかけがないかだけ見ていきました。


 時間が余ったのでゆっくり見直しを行い、できるだけ問題用紙に回答を写していきました。そろそろ提出してもいいかな…という頃合で「残り10分を切りましたので退出不可」のお知らせが。試験終了まで腰が保ったことに感謝し、解答用紙を提出しました。提出前にもう一度受験番号と名前を確認させてもらえました。

試験終了後

 TACの解答速報を受け取って、妹と合流。気になった精算表の当期純利益だけ先に確認し、合っていたことに安堵しました。引き続き頑張ろうと2級の問題集を買って帰宅。ネットの解答速報で改めてチェックしましたが、あれ、ほとんど合ってるなぁと嬉しくなりました。

 結果は、まさかの満点合格。看護婦さんやリハビリの先生に報告しましたが、皆さん喜んでくださいました。「怪我や病気でスキルアップを諦めることはない」という一つの結果を残せたと思います。

管理人から文月みさきさんへ追加の質問

 文月みさきさんの、勉強期間中のモチベーションの維持方法を教えて下さい。
 入院中だったので、他にすることが少なかった のが大きかったです(笑)「入院中に『何かができた』という実績を残したい」「少しでも転職に向けての準備を進めたい」というのがモチベーションに繋がったというのもあります。

 また本文中にも記しましたが、患者さんや看護婦さんと簿記の話で盛り上がれたというのもあります。そろばん片手に挑んだ方や、夫の家業を支えるため子供を背負って仕訳問題に取り組んでいた方…等たくさんのいい話を聞けました。

 ご自身の勉強方法を振り返っていただき、これから勉強を始める方にアドバイスがあればお願いします。
 教材を選ぶ際は、評判やオススメもさることながら「自分の目で見て選ぶ」ことをオススメします。私の場合はそれができなかったので…解説や問題の多さ・図表の多寡もそうですが、なんか紙が嫌とか、イラスト可愛いとか、そういった「小さな」要素まで拘るとしたら自分で見るしかないですもんね(笑)

 後は、ネットを最大限に利用するというのも私ができなかったオススメしたい点です。試験の情報や他の受験生との交流、様々な教材の評判、オススメ勉強法等…利用しない手はないと思います。

 最後に、少しでも試験の受験に身体上の不安がある方は、会議所の方に相談すると良い手を講じてくださるかも知れない旨も併せてお伝えしておきます。

管理人コメント

 文月みさきさん、合格体験記のご投稿ありがとうございました!ハンデキャップを抱えた中での勉強・受験は大変だったと思いますが、がんばって勉強すれば短期合格&一発合格も十分可能であることを証明していただきました。

 また、申込時や受験時の特別対応の流れを詳細に書いていただきましたので、同様の対応を希望される方はぜひ参考にしてください。なお、実際に受験する際は、受験する商工会議所に直接問い合わせることをおすすめいたします。

 あとは…追加の質問のところでも書いていただきましたが、「テキスト・問題集は実際に自分の目で見て比較する」「ネットを有効活用して情報収集する」の2点は独学受験において非常に重要です。これから勉強しようと思っている方はぜひ見習ってください。

文月みさきさんが使われた教材や電卓のまとめ